相思相愛ですがなにか?

「10月ともなると日本は涼しいな、月子」

アスキムは私を発見するなり、片手を上げてニッと微笑んだ。

季節外れのエイプリルフールならどんなに良かったかと思ったが、アスキムは本当に日本にやってきた。

アラブ諸国特有の袖口が広く風通しの良い白地の民族衣装を着て、頭からヴェールのような大きめの布地を被ったアスキムは、自家用ジェットで空港に乗りつけると、そのまま堂々と日本の地に降り立った。

身分を隠す気はさらさらない派手な登場の仕方に、空港ロビーでアスキムを出迎えた私は苦虫を噛み潰したようなしかめ面で応えた。

……多分、お忍びのつもりでやって来たはずだけど、全然忍べていない。

空港ロビーではアスキムに付き従うおつきの人たちがこれでもかと列をなしていて、その異様な光景に一般の利用客は映画の撮影かなにかと、遠巻きに見物したり、写真を撮ったりする者も現れ始める。

王族ということを除いても、カウリス王国第4王子、アスキム・サラーム・カリウスは目立つ男である。

濡れ羽色の髪に、浅黒い肌、マーシャルアーツで鍛えた体躯は、緩やかな布地で覆っても隠し切れない。

その上、彫刻を思わせる堀の深い顔立ちは、文句なしに良い男の部類に入る。

……ま、伊織さんほどではないけど。

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