相思相愛ですがなにか?

「月子が英国に留学していたころは、毎日のように会っていたからな。家も近所だった」

どこから聞きつけたのかは未だに不明だが、アスキムが英国にある南城家の別宅に足しげく通っていたのは、お兄ちゃんが昔、英国滞在中に集めてそのまま置いていったマンガを借りにくるためであった。

「ついでに、私のいない間にうちに居候していたルーをそそのかしたのよね?」

アスキムにしか聞こえない音量で思い切り皮肉を言うと、さすがに不興を買ったのかテーブルの下で、ハイヒールの爪先をこれでもかと踏みつけられた。

(なによ!!本当のことじゃない!!)

伊織さんの前で醜態をさらすわけにもいかず、私は声にならない悲鳴を押し殺しひたすら耐えるのだった。

あの時、ルーを別宅に置いて南仏にバカンスになんか行かなければっ!!

後悔先に立たず。

ルーみたいな良い子がアスキムの毒牙にかかってしまったことが、今でも惜しまれる。

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