相思相愛ですがなにか?
「伊織さん……お仕事の邪魔をして本当にごめんなさいね」
「帰りに気をつけて」
突然の訪問について詫びると、いつもよりそっけなく返された気がして、すうっと背中が冷えていくのを感じた。
普段ならもっと優しく声を掛けてくれるところだけど、入籍を先送りすると伝えて以来、伊織さんとの距離を感じてしまう今日この頃である。
本当はお仕事頑張ってねと頬にキスしたかったけれど、片思いの女性がいたという事実を知った今では、それもためらわれてしまう。
婚約者という立場を笠に着て、事あるごとに軽いスキンシップを重ねていたこと、内心は嫌がられていたのかもしれない。
泣いてはダメよ、月子。
手っ取り早く結婚を済ませてしまいたい伊織さんから疎まれたとしても、彼の心が自分に向くまでは待とうって、自分で決めたことじゃない。