相思相愛ですがなにか?
執務室から立ち去る際に俺に投げかけてきた挑発するような視線には、幾ばくかの怒りが宿っていた。
完全にノーマークだった俺に月子ちゃんを横からかっさわれたことに、憤りを感じているように見えた。
……アスキム王子も俺から月子ちゃんを奪いに来たのだろうか?
次から次へと雨後の筍のように月子ちゃんにつきまとう男がやって来て、俺は少し疲弊していた。
こんなことなら、強引にでも入籍を進めてしまえば良かった。
夫として盤石の地位を得れば、この不安も消えるのだろうか。
月子ちゃんが入籍を先送りにしたいと言い出した時、その理由を問いただすこともできたはずなのに、俺は敢えて尋ねようとしなかった。
……理由を知るのが怖かったからだ。
知ってしまったが最後、きっと再起不能なほどに打ちのめされてしまうだろう。
彼女に愛されていないことなど、口にされなくとも分かっている。
それでも俺は……彼女と結婚すると決めているのだ。
役所に提出するだけになっている婚姻届をブリーフケースの中に入れて肌身離さず持ち歩いているのが良い証拠だ。
彼女との結婚を一日千秋の思いで待ち望んでいるからこそ、入籍を拒まれたことが自分でも予想外なほどに尾を引いているのだ。
入籍は結婚式のあとにするということだけしか今は決まっていない。
それ以前に、本当に月子ちゃんは俺と結婚する気はあるのだろうか。
日に日に猜疑心が強まっていき、先ほどもそっけない態度をとってしまった自分が情けなくなる。