相思相愛ですがなにか?

「月子ちゃんは?」

アスキム王子との会談を終えた俺は家に着くなり、使用人に月子ちゃんの居所を尋ねた。

「月子様ならプールでございます」

主の帰りを待っていた使用人は、月子ちゃんの居場所を告げると早々に己の持ち場に戻っていった。

(プールか……)

体型維持のためにトレーニングを欠かさない彼女らしい。

俺は痩せていようが、太っていようがどちらでも構わないが、彼女の美意識がそれを許さない。

玄関から室内プールへと向かう道すがら、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めていく。

ジムの隣に設置されている温水プールは、いつ何時でも使用できるように常に水が貯められている。

白波をいくつも立たせながら一心不乱に泳いでいた彼女は、プールサイドに誰かいることに気が付くと水から顔を上げたのだった。

「あれ……伊織さん?」

「俺のことは気にせず泳いでいて」

「伊織さんも泳ぎませんか?」

「俺は遠慮しておくよ」

「そう?」

そう言ってお誘いを断ると、月子ちゃんは日課をこなすべく再び水の中に潜っていった。

俺はプールサイドにあるチェアに腰かけ、黙々とトレーニングに励む彼女の姿を目で追った。

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