相思相愛ですがなにか?
(お兄ちゃんのバカっ!!)
私は気の利かない我が兄に心の中で悪態をつき、ヒールが高くて走りにくい靴を脱ぎ捨て、由緒正しい調度品には目もくれず、毛足の長めの絨毯が足の裏に心地よい刺激を与える長すぎる廊下をひた走った。
嵌め殺しの格子の窓からは手入れが行き届いた庭が臨め、季節を彩る様々な花が咲き誇る様がしばしば見る人を楽しませるが……今日ばかりは素通りである。
南城家の住まいとして明治時代に建てられた洋館は、なにぶん玄関からリビングまでの距離が遠すぎる。
先祖代々の遺産を大事にしろというのが我が家の家訓であるが、日常生活の不便さを考えると自治体に寄贈するか改築も考えたいところだ。
「お兄ちゃん!!」
私はリビングに入るなり大声で叫び、ぐるりと辺りを一周してお兄ちゃんの姿を探した。
「どうした?月子」
ビロード張りの一人掛けソファに座り、のんびりとコーヒーを啜っていたお兄ちゃんを見つけると、ズカズカと品性の欠片も見当たらない大足で近づいて絶叫する。