相思相愛ですがなにか?

「いい子だなー!!」

お兄ちゃんが手ずから餌であるニンジンを与えると、雄のラクダはひょいと頭をもたげてニンジンをバクリと食べた。

こんなに間近でラクダを見たのは初めてだが、なかなか迫力がある。

細長い首も、マツエク要らずの睫毛も可愛げがあるように見えなくもない。

「うえっ!!」

調子に乗ったお兄ちゃんがアスキムのようによしよしと頭を撫でようとすると、顔を涎だらけにされるという手痛い洗礼を受けた。

巻き添えはゴメンとばかりに、私はその様子を遠巻きに眺めていた。

二頭の名前はライとロイ。

ライが雄で、ロイが雌である。

二頭のラクダは人目もはばからず、互いの伴侶にスリスリと身体を擦り付け合ってる。

(うわあ……私、ラクダにも負けてるじゃない……)

伊織さんとの仲がこじれにこじれて途方に暮れている私は、ラクダにすら劣等感を抱いてしまう。

……本当ならこんな風にのんびりラクダを眺めている暇はない。

一分一秒でも早く、伊織さんにあの時の心境を説明して誤解を解かねばならないのに、運悪く彼は今、ニューヨークに出張に行っている。

伊織さんの帰宅は3日後。

どう足掻いてもあと3日で私の運命が決まってしまう。

今の私に出来ることといえば、その時がやってくるまで英気を養うことくらいである。

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