相思相愛ですがなにか?
「月子様、お客様がいらっしゃっているのですが……」
トントンと自室の扉がノックされ、名の知れぬ女性への逆恨みが募るばかりだった私に執事が突然の来客を知らせた。
「誰にも会いたくないの……。帰ってもらって!!」
こんな気分のまま誰かと会う気には到底なれず、何もかもを拒絶するようにそう伝えると扉の向こうから誰かが私の名前を呼びかけた。
「月子……開けてくれ」
「……アスキム?」
アスキムの声が聞こえて、私は思わず布団から頭を出した。
「開けないなら扉を壊すぞ」
……アスキムなら本気で扉を壊しそうだ。
アスキムの代わりに扉を破壊したことをお兄ちゃんに怒られるのは十中八九、私である。
脅しに屈するのは癪だったが、私は扉の前に築いたバリケードの山をどかすとアスキムを部屋の中に招き入れた。
「婚約が解消されたと、冬季緒から聞いた」
アスキムは泣き疲れてボロボロの状態の私を見ると、ひどく居心地が悪そうにそう言った。
お兄ちゃんのバカ……。
アスキムにまで知らせなくてもいいじゃない……。
婚約を解消したことを改めて実感し、とてもじゃないがアスキムをもてなす気力が湧いてこない。
意気消沈してベッドに戻る私を慰めるためなのか、アスキムは熱心に語り掛けてくる。