相思相愛ですがなにか?
「出ていって!!」
私はベッドから枕を取り上げると、思い切りアスキムに投げつけた。
ここは日本だ。
本来なら不敬罪で問われるところだろうが、ちょっとくらい無礼を働いてもバレやしない。
「アスキムに私の気持ちなんて分からないわよ!!」
ルーという最良の伴侶に恵まれた、アスキムには私の気持ちは一生分からないだろう。
伊織さんを繋ぎ止める唯一の手段がこの政略結婚だったのだ。
それが失われた今、伊織さんの気持ちが離れていくのを止める手段がなくなってしまった。
「すまなかった……」
アスキムは謝罪すると、私の剣幕に恐れをなして、すごすごと帰って行ったのだった。
ハアハアと肩で息をしていた私は呼吸を整えると、再び頭から布団を被った。
縁談が持ち上がった当初から政略結婚に罪悪感を抱いていた伊織さんなら、アスキムの一言で私との婚約を考え直してしまうのは想像に難くない。
アスキムはこの政略結婚の裏側を知らなかったのだから、彼を非難するのは間違っている。
……そう、間違っていたのは私だった。
お兄ちゃんと取引して、伊織さんに結婚を迫った私が一番最低な人間だった。
伊織さんには想っている人がいると知っていたのに、そのまま結婚しようとした。
婚約解消は伊織さんの気持ちを無視した報いなのだ。