相思相愛ですがなにか?

「伊織に頼まれたんだよ。お前とどうしても結婚したいから政略結婚っていう体で仲を取り持ってくれって」

……どこかで聞いたような話である。

「私と……同じ……」

私の顔に生気が戻ると、お兄ちゃんやれやれと大きく肩を竦めて言った。

「わかったらさっさと伊織と仲直りしてこい。こっちはお前たちの結婚準備で駆けずり回ってんだ。中止にしたら許さねえからな」

お兄ちゃんが部屋から出て行くと、私は数日もの間お世話になったベッドから抜け出し、テーブルの上に置いておいた婚約指輪をもう一度左手の薬指に嵌めて天にかざした。

指輪の輝きはあの日から何ら変わることがなかった。

私はパジャマから着替えて、すっかり湿っぽくなった自室から出て伊織さんの元へと駆け出す。

……伊織さん。

もし、伊織さんが私と同じように政略結婚を計画していたのなら。

私のことが好きだって、うぬぼれてもいいですか?

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