相思相愛ですがなにか?
つい先日までは、見ていることしかできなかった彼女が隣にいるなんて、誰が想像できただろう。
ふわりとなびく豊かな黒髪、扇のように広がる睫毛、なだらかな起伏を描く輪郭。
どれもが素晴らしい仕上がりで、彼女はさながら歩く芸術作品のようだった。
「リンネットに連れてきてもらえて嬉しい!!」
月子ちゃんはごく自然に自分の腕を俺の腕に絡ませはしゃいでみせた。
きっと、何も知らない第三者が見たら仲睦まじいカップルだと思われること請け合いだろう。
婚約指輪を買いに行くなら、それらしい雰囲気を醸し出す必要があるだろうが、これなら心配ないだろう。
自然に距離を詰めてくる月子ちゃんに対して、俺の態度はどこかよそよそしいものだったが、積極的な彼女に翻弄される彼氏に見えないこともない。
婚約指輪を買いに来る男女の例にもれず相思相愛を演じて店内に入ると、平日にも関わらずあちこちに指輪を見ているカップルがいた。
都心の一等地に店を構えるだけあって、なかなか繁盛しているようだ。