相思相愛ですがなにか?
「嫌ですわ、専務。好きな人からもらえる指輪ならどれだって嬉しいものですよ」
この場合、好きな人ではなく好きでもない婚約者から贈られるものなんだが。
「僭越ながら……専務、他の女性が選んだ指輪を受け取って嬉しがる女性はおりませんよ。どんなものでも専務ご自身が選ばれた方が良いのでは?」
片山くんの言うことはごもっともで、安易に他人の力を借りようとした自分を恥じた。
「アドバイスくらいはもらっても?」
「ええ、喜んで」
片山くんという心強いアドバイザーを迎え、国内老舗のジュエリーブランドに照準を絞る。
仕事帰りに近場の店舗に立ち寄り物色するが、ショーケースの中に所狭しと並べられているジュエリーやアクセサリーを見ているだけで目がチカチカした。
「何かお探しですか?」
独身男が一人で指輪を買いに来るのは珍しくないのだろう。
女性店員が気軽に声を掛けてくれたのは幸いだった。
「婚約指輪を探しているのですが……」
「ただいまお持ちいたしますので、お待ちください」
持ってきてもらった指輪をじっくり見分して、最後に重要なことを確認する。
「今日、持ち帰れますか?」
「はい。サイズさえ合えば、本日お持ち帰りいただけます」
女性店員の言葉にうんと頷くと、俺は散々悩んだ挙句に、彼女の華奢な指に似合いそうな指輪をひとつ購入したのだった。