相思相愛ですがなにか?
6.サプライズ
「怒鳴り声が扉の外まで聞こえていたぞ?」
俺はそう言うと月子ちゃんに狼藉を働こうとしたデザイナーの男を思い切り突き飛ばした。
勢いがつきすぎてデザイナーの男は不格好に床に尻もちをついたが構いやしない。
もう少し俺の到着が遅れていたら、一体何をするつもりだったんだ?
抑えようのない怒りがマグマのように湧き出て、今にもこの身を焼き尽くしてしまいそうだった。
VIPルームの扉に鍵が掛けられておらず、異変を感じた瞬間に止めに入ることができたのが不幸中の幸いだった。
俺はソファで放心している月子ちゃんの腕を取り、立ち上がるのを手助けした。
触られた二の腕をさする彼女の唇がわずかに震えていて、目の前にいる男を更に蹴り上げたい衝動を寸でのところ抑え込む。
「あの……久喜さん。私……あなたの気持ちには応えられません」
男を蹴り上げる代わりに、俺の背後に隠れていた月子ちゃんが男の好意を突き返す。
「そ、んな……」
はっきりと拒絶されデザイナーの男は諦めがついたのか、打ちのめされたようにがっくりと肩を落とした。
何のためらいもなくあっさりと振られるくらいなら、俺に殴られた方がいくらかましだっただろう。
俺は月子ちゃんに木っ端微塵に振られたこの男に対して同情するとともに、ほのかな優越感を感じていた。
この男が喉から手が出るほど求めても手に入れられなった彼女と、俺は婚約している。
「月子ちゃん。行こう」
俺は月子ちゃんの手を引き、VIPルームを後にしたのだった。