相思相愛ですがなにか?
俺はいつからこれほど性根が悪くなったのだろう。
人の上に立つ者として、常に己を律し、他者への敬意を忘れるなと、長年教育されてきたが、こんなにイラついたのも、他人をあんな風に見下すのは人生において初めてかもしれない。
うすうす感づいていたが月子ちゃんが関わることになると、俺の性格は変わってしまうらしい。
(まずいな……)
……月子ちゃんには狭量で器の小さい男だと思われたくない。
新しい自分の扱い方を模索しているうちに、隣に付き添っていたはずの月子ちゃんとの距離が次第に離れていく。
「伊織さん……ごめんなさい……」
俺が次に月子ちゃんの存在を思い出したのは、彼女が消え入りそうな声で謝った時だった。
「折角、伊織さんが心を砕いてリンネットを選んでくれたのに、こんなことになって……。私のせいだわ。久喜さんがあんな風に思っているなんて知らなくて……」
自責の念に駆られてひたすら謝る月子ちゃんを見て、己のふがいなさに思い至り心の中で舌打ちする。
自分のことにかまけて、肝心な彼女のフォローを忘れるなんてとんだ失態である。