相思相愛ですがなにか?
「月子さん、入ってもいいですか?」
脳内劇場を絶好調開演中だった私は支度部屋の扉がトントンとノックされる音で我に返った。
(いけない、いけない!!)
私は気を引き締めるように、頬をパシンと軽く叩いて気合を入れた。
こんな風にボケている暇はない。
……なんたって、今日は藤堂家のお屋敷で婚約パーティーが開催されるのだから。
私ってば用意してもらったお仕度部屋が、なかなかに居心地が良くて、ついつい自分の世界に入り込んでしまった。
「どうぞ」
頭をサッと切り替え、来訪者を笑顔で出迎える。
「婚約おめでとうございます、月子さん」
「わー!!ありがとう!!」
私は扉の向こうから現れた雫ちゃんに思い切りハグして、これでもかと頬ずりした。
パーティーが始まる前にわざわざ挨拶に来てくれたのは伊織さんの妹の雫ちゃんだった。
国内屈指の名門女子大学に通う20歳の大学生は、清楚で素直で可愛くて絵に描いたような理想の妹のそのものだ。
伊織さんはこの年の離れた妹を目に入れても痛くないほど可愛がっていた。
……うちのお兄ちゃんに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいである。