極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない

出会いは突然、最悪に

空が淡いピンクとブルーに染まる黄昏時。
倉沢陽奈子（くらさわ　ひなこ）は次から次へとデジカメを構えては、美しい景色をバックに微笑みを浮かべる人たちの写真を撮っていた。

年間を通して温暖な気候のここマルタ島はイタリアの南側、地中海の中央にある。

世界遺産でもある首都バレッタの対岸に位置するスリーマからは、はちみつ色と形容される城壁に囲まれた街がよく見渡せた。絶好の撮影スポットとして有名なため、特に美しさを増す夕刻には多くの観光客で賑わう。


「私たちもお願いしていいですか？」


四月の清々しい風を頬に感じる中、ヨーロッパ系やアフリカ系の外国人に続々と英語で尋ねられ、「もちろんです」と応じては順番に撮影していく。

陽奈子自身も観光でこの地にやって来たのだけれど、ひと組のカップルに応じて写真を撮ったあとから自然と列ができはじめ、なぜかカメラマンと化した。

（あれっ？　また増えた？）

撮っても撮っても、列が減らない。