極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
ついさっき貴行が店に現れたとき以上に驚いた様子だ。
「なにをするんですかっ」
「なにって、キスだけど」
小声で異議を申し立てる陽奈子に、貴行は悪びれもしない。
「そうじゃないです。人がたくさんいるのに……!」
帰宅時間と重なり、歩道にはたしかに多くの人がいる。だが、たいていは無関心で、今のキスを目撃したところでなんとも思わないだろう。
「俺は、こっちより陽奈子の唇のほうがうまい」
正直に切り返し、陽奈子を後部座席に押し込め、自分もそのあとに乗り込んだ。
走りだしてすぐ、持っていたカップを陽奈子に手渡す。
「陽奈子が飲むといい」
「なーんだ、せっかく貴行さんに作ったのにな」
「俺が飲むコーヒーは、いつもブラックだろ」