極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
◇◇◇
その夜の六時半。貴行は懐石料理店の個室で、陽奈子を待っていた。
新緑が鮮やかな中庭がよく見え、網代天井で格式のある落ち着いた座敷だ。
きっと陽奈子も気にいるだろう。
昼間、陽奈子に連絡を入れると、不覚にも先に彼女から謝まられてしまった。『俺の方こそごめん』と出遅れる情けなさといったらない。
ともかく陽奈子との仲直りは済み、ここで待ち合わせることになったのだ。
ところが、七時を過ぎても陽奈子は現れない。
六時までの勤務だから、タクシーでここへ向かえば六時半には着く距離だ。
腕時計を何度も確認しつつ、襖に視線を配る。
(どうしたんだ? 渋滞にでもはまったか)
胸ポケットからスマートフォンを取り出してみるが、陽奈子からメッセージが入った様子もない。
なんとなく胸騒ぎを感じた。
陽奈子の連絡先をタップし、電話をかける。
ところが呼び出しはするものの、いくら呼び続けても陽奈子は出ない。
心臓が激しく打ち、真っ黒な予感に包まれていく。