極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
父親の不正問題も再び暴かれ、みんなの記憶をもう一度呼び覚ましてしまう。
陽奈子の言葉に、早紀の目が一瞬だけ揺らぐ。
こんな事態になっても、早紀を責める気持ちにはならなかった。
「……傷つかないわよ。もうとっくに心はボロボロなんだから」
ふんと鼻を鳴らし、ぷいと目を逸らす。
その様子がとても悲しげに見え、胸の奥がキリキリと痛んだ。
不意に立ち上がり、早紀が窓辺に行く。閉め切っていたカーテンを開けると、外は外灯ひとつない真っ暗闇だ。
「それにね、ここは簡単には見つからないわ。まず、私が陽奈子ちゃんを連れ去ったとは思わないでしょうから」
「でもいつかは……」
「そうね、日本の警察もバカじゃないでしょうから、いつかは私にたどり着くかもしれない。でもそれでいいの。ツキシマ海運の悪評さえさらされればね」
達観したように早紀が言い放つ。
破れかぶれには見えず、どこか覚悟をもってやっているように思えた。