極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
水から顔を上げ、濡れた髪をかき上げた。
「隣にいないからびっくりしちゃった」
「眠れないからひと泳ぎ。気持ちいいぞ」
言われてプールに手を伸ばすと、心地いい温度だ。
八月下旬。まだまだ暑い日は続いており、昼間の太陽であたためられた水は、月の光を浴びてもまだ温度を下げることなく揺らめいている。
「陽奈子もおいで」
伸ばしていた手を掴まれた陽奈子は、貴行に引っ張られてそのままドボンとプールに飛び込んだ。
水しぶきがあがって、パジャマはもちろん髪の毛も顔も濡れる。
「ちょっ、貴行さん! なにするんですか!」
「陽奈子と一緒に泳いだことがなかっただろう?」
「だからって今じゃなくても……!」
燦々と日の照った昼間に水着ならまだしも、パジャマを着たままだし真夜中だ。
陽奈子の抗議も、貴行は素知らぬ顔。穏やかに微笑み、陽奈子の頬に張りついた髪を耳にかけた。