極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
(今、キスされた、よね……?)
甘い余韻が陽奈子をそこから動けなくしていた。事態を思い知った途端、心臓がありえないスピードで打ち始める。
信じがたい出来事に放心状態だ。
「陽奈子、明日のフライト時間は?」
貴行が不意に尋ねる。まだ通話中なのか、スマートフォンは手にしたままだ。
「あ、ええっと……九時半の飛行機です」
急ピッチで記憶を手繰り寄せ、なんとかそう答える。なにしろキスをされた一大事で頭はパニック状態だ。
「見送りに行く」
「はい?」
「仕事でトラブル発生だ。明日、空港で」
慌てた様子ながらもスマートな立ち居振る舞いで、貴行はプールサイドからホテルの中へ入っていった。
取り残された陽奈子は、しばらくそこから動けずにいた。