極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない
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仕事を終えて帰宅した陽奈子のスマートフォンが鳴ったのは、それから一ヶ月が過ぎたある夜のことだった。
ひとり暮らしをしているアパートは、オーシャンズベリーカフェまで電車で二十分。乗り換えせずに済むため、通勤にはとても便利だ。
築十年が経過した鉄筋四階建てで、二階の角部屋には大学を卒業して就職したときから住んでいる。
1DKの部屋のテーブルに置いていたスマートフォンの画面には、母・未恵(みえ)の名前。マルタ島から帰宅した日に電話をかけて以来だ。
「もしもし」
『陽奈子? もう帰ったの? 今、平気?』
「うん。大丈夫だよ」
ちょうどお風呂からあがり、着替えを済ませたところだった。
『実はね……』
未恵の声のトーンがいきなり落ちる。いったいなにがあったのだろう。