極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない

「はい。よろしくお願いいたします」


陽奈子はカチンコチンに固まった上体をなんとか傾けた。

それからのことはよく覚えていない。
陽奈子を除いた四人で和やかな歓談をしつつ、貴行が持参した高級パティスリーのケーキに舌鼓を打ち、気づいたときには貴行が運転する車の助手席に乗っていた。

当然ながら、乗った経験のない超高級セダンだ。
ひとり暮らしをしているアパートへ貴行が送り届けてくれるという。


「久しぶりだな、陽奈子」


ふたりきりになって最初に口を開いたのは貴行だった。


「……いまだに状況がよくわからないんですが」
「わからない? 陽奈子は俺と結婚する。単純明快な話だろう」
「結婚はわかるんです。うちの借金をツキシマ海運が肩代わりしてくださるのが条件なのも」


そこに現れたのが貴行なのが理解不能なのだ。
ツキシマ海運と仕事上の取り引きがあるのは知っている。豊の工場の製品のほとんどが、ツキシマ海運で使われているものだということも。

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