恋のレッスンは甘い手ほどき
11.貴也side
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「あの食堂の女の人、目元しかわからないけど美人じゃね?」
鈴音を意識し出したのは、同僚の何気ない一言だった。
カウンター業務をしているマスク姿の鈴音。
その時はよく顔が分からなかったけど、仕事帰りに見かけた時に確かに黒髪ストレートがよく似合う、目元の黒子が特徴的で綺麗な子だと思った。
でも最初はそれだけ。
……だったのに。なのに、いつの間にか食堂に来ると目で追ってた。
無意識に彼女を探している自分がいた。
自分とは全く職種が違う。話したことすらない。
だからレンタルショップで見つけた時、話しかけるチャンスだと思ったんだ。
今思えば、自分でも驚くくらい早い行動力だったと思う。
「こういう本が好きなんだ?」
鈴音には自然と素のままで話しかけていた。
そして、ときめきが欲しいと話す彼女にある提案を持ちかけたのだ。
「ときめきの練習をしてあげる。その代わり、俺の偽の恋人になってよ」
結構、いい提案だと思わない?
上司や親からの見合いの催促にうんざりしていたのは本当だし、正直、自分に興味がない子が恋人役をしてくれるならそんな楽なことはないと思った。
彼女にも俺にも利益がある。悪い話ではないはずだ。
だがしかし、俺は弁護士という職業柄、なかなか忙しい。
仕事も楽しくなってきたし、恋人などに構っていられない。
だから、同居を持ちかけたんだ。
一緒に住めば、鈴音の練習にも付き合いやすい。いちいち時間を割く必要もなくなる。
そんな、軽い気持ちだったんだ。
それなのに……。
鈴音と一緒に住み始めて、どんどん独占欲がわいた。恋人契約を結んだときにした内容を無視するほど。
俺の体調を心配してくれたときは、凄く嬉しかった。
鈴音のことも気になって、心配になることが多かった。
元カレが出てきたときも腹が立ったし、気が付けばキスもしていた。
でも、鈴音が好きだとは思ってなかった。
いや、自覚していなかっただけなんだ。
近くにいるのが当然のような気持ちになっていたのかもしれない。
自覚したのは、野上が鈴音の周りをチョロチョロしだした頃だ。