恋のレッスンは甘い手ほどき
そんなある日、野上が資料を持って俺の所へ来た。
「これ、届けてよ」
「なんだよこれ」
封筒の中身を見ると、うちの事務所ではない別の弁護士事務所の資料と名刺が入っていた。
そして住所が書いてあるメモが封筒に貼ってある。
「ここのカフェのオーナーにこれを渡してほしいんだ」
「何で俺が」
「滝本がいるからだよ」
「え……?」
野上の言葉に目を丸くする。
鈴音がここに?
メモの住所はここから少し離れた場所だった。でもそう遠くはない。
「ここで店員として働いているらしい。オーナーの離婚相談を受けて、俺に良い弁護士はいないか連絡してきた」
「俺が持って行っていいのか?」
鈴音は野上に連絡したのだから、野上に会いたいのではという思いがよぎる。
すると、野上は「ふん」と鼻で笑った。
「あのさ、高校生みたいなこじらせかたしないでくれる? 俺と滝本は全く恋愛関係にはないよ。滝本は俺をそういう風に見たことすらない。振られたって言ったでしょう」
野上は呆れたようにため息をついた。
「話すチャンスじゃん」
「……あぁ」
鈴音が今、どういう状況かわからない。
でも今度は逃げずに話がしたい。
「頼んだからね」
「ありがとう」
初めて野上にちゃんとお礼を言った気がする。
前に鈴音が野上は世話焼きタイプだと言っていたが、その意味がよく分かった。
鈴音に会いに行こう。
鈴音の言葉を信じなかった俺が全て悪い。ひとりで空回っていて、みっともないな。
会えたら、鈴音に気持ちを伝えよう。
もしかしたら、もう他に恋人がいるかもしれない。
嫌われていて、振られるかもしれない。
それでも、きちんと言わないと何も先に進めないと思った。
言葉にして伝えたい。
『鈴音が、好きだよ』
END