恋のレッスンは甘い手ほどき

漫画で意地悪と言われる人は本当は優しい、または照れ隠しというパターンが多い。
しかし、目の前で唐揚げを頬張るこの人は本当に意地悪だと思った。
いくらピーク時を過ぎたとはいえ、まだまばらに食堂に人がいるにも関わらず大声であんなタイトルを言おうとするなんて。
それに、弁護士と調理場の人間というこの組み合わせは意外でしかなく、チラチラと見られてしまうのだ。
木崎弁護士に誘われた時の大関さんの顔はキラキラしていて、頬を染めながら早く行って来いと後押しまでされてしまった。

話すことなんてないのに、とため息を我慢しながらちょうど私も休憩のため、木崎弁護士の前に座る。

「ここの唐揚げって本当にうまいよな」
「ありがとうございます」

褒められたことには純粋に嬉しくなって、ぺこりと頭を下げる。今日の唐揚げの仕込みをしたのは私だから尚更だ。

食事中の木崎弁護士を盗み見る。
なんとまぁ、綺麗に食事をする人だなと思う。
お箸の使い方やマナーはもちろん、パクパクと男らしく食べるのに食べ方が綺麗だ。
綺麗な食べ方で美味しく食べてもらえると、それだけでその人の印象が良くなるのだから単純だ。
少しだけ、ね。
これも職業病かもしれない。

けど、とチラッと時計を見る。時刻は三時を回っていた。
こんな時間に昼食だなんて忙しかったんだろうか。

「お忙しそうですね」

そう声をかけると、木崎弁護士は少しだけ顔を上げた。

「ん? あぁ、裁判所に行っていたからな。それにちょっと案件が詰まっていたから」
「そうですか」

弁護士の仕事のことは何一つわからない。
ただ、この食堂の営業時間が9時から20時までで、閉店間際になっても食事をとりに来る人も良くいるので、忙しいということは何となくわかっていた。

「それで、お話とは?」

木崎弁護士が食べ終わり、一息ついたところで口を開くと「金曜のことだけど」と言われる。


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