恋のレッスンは甘い手ほどき

「もうその話はいいですよ」
「いや、気になってさ。君にとってああいう本を読むことは大事なことなんだろう? どうしてかなって」

そう聞いてくる表情も話し方も爽やかで柔らかい。しかしそれも金曜日や先ほどチラッと見えた意地悪な顔と低い声の後ではどうも胡散臭く見える。
もしかしてこの爽やかな感じは外向けなのではないだろうか。

「別にどうでもいいですよね?」
「いや、単なる疑問だから」
「……好きなんですよ、ああいうの」
「そっか。まぁ、人の好みには口出さないけれどね。ただどうしても君の゙今゙大事なことって言葉が引っかかったから」
「引っかかったからってどうだって言うんですか。私がキュンとしたときめきを求めてはおかしいですかっ」

つい喧嘩口調で言い返してしまうが、目の前で頬杖をついた男は顔色を変えない。

「あぁ、やっぱりそういうのを求めていたんだ」

ニッコリと微笑まれた顔に舌打ちしたくなった。
あぁいけない、いけない。舌打ちとか、こういう所が恋愛から遠ざかる原因でもあるのか。
そのため、ため息に換える。
イライラを見せないように机の下でギュッとこぶしを握って抑える。

「だったらどうだって言うんですか」
「彼氏いないの?」
「いたら苦労はしていません」
「なるほどね。恋愛したいからあんな漫画を読んでときめきを求めようとしたわけか」

……弁護士って嫌いだわ。

いや、それは偏見か。素敵な弁護士は山ほどいる。
この木崎弁護士が嫌いだわ。
だって、察しがいいし、なんとなく流されてペロッと話してしまいそうな雰囲気を作るのがうまい。
なんで? どうしてこんなことされているの。
私、何かしたっけ?

「ときめきって必要?」

なおも質問してくる木崎弁護士に若干面倒くさくなってきて、もうどうでもいいやとすら感じてくる。
あぁ、私の貴重な休憩時間が。

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