恋のレッスンは甘い手ほどき
「悪くないって顔だな。合格か」
「別に……」
「嘘つくな」
確信を持ったような言い方にグッと言葉に詰まる。
無言で睨むが、相手は真っ直ぐと私を見返していた。
「ハァ。……そうですね、悔しいですが」
爽やかでもなく意地悪そうな低い声でもなく、ゾクッと来るような甘い声。
加えて優しい仕草。こんな単純な仕草で赤面するほどではないが、微かにドキッとしたのは確かだ。
もちろん一瞬でそれも消えたが。
まるで10代がされてときめくような仕草だが、私のような恋愛経験知が低い人間には少しは利いていた。もちろん、少しだけど。
でもさすがというべきか、その一瞬の揺らぎを見破られてしまった。
いくら私が違うと言ったところで敵わない雰囲気をかもし出されている。
「じゃぁ、俺が君のときめき練習台ってことで決まりだな」
勝手に決定事項にされ、つい唇を噛むが木崎弁護士は勝ち誇った顔をしている。
でも……。
と、黙って冷静に考えてみる。
悔しいことに自分のパーソナルスペースを侵され、しかも身体に触れられたのにも関わらずそれを不快に思わなかった。思うどころか、悪くはないと感じてしまっていた。
つまりは私にとって、木崎弁護士は生理的に受け付けないというようなタイプではないということだ。
それに見た目的には正直、好きな部類である。
他の人のように騒ぐほどではないが、普通にカッコイイと思えるほどだ。側に寄られても不快感はない。
むしろ、こんないい男(性格は抜きにして)に練習台になってもらえるのだから、この際利用してもいいのではないだろうか。そもそも、本人の申し出だし。
それこそ、『悪くない』というやつだ。
しかし、その前にひとつ気になることがある。
「それで? 先生は?」
そう聞くと「ん?」と首を傾げられる。
とぼけても無駄だ。
「私にタダでそんな申し出しませんよね? 何が目的なんですか」
単刀直入に聞くと「ぶはっ」と笑ってお茶を吹き出した。
汚いなー、もう。
「……どうしてそう思うんだ?」
「いや、普通思いますよね。だってこの間がほぼ初対面なのにそんなことするのには何か目的があるのかなって」
そんなこと誰でも思うことだろう。
しかし木崎弁護士は面白そうに私を見つめてくる。