恋のレッスンは甘い手ほどき
「ま、待ってください。でもたとえ今恋人がいないとしても、それくらい引き受けてくれる女性ならたくさんいるんじゃないですか? つまり、‘そういう’……」
「いない」
言葉を濁すと、意味を理解したのか遮るように否定された。しかも馬鹿だろうというような目で見られる。
いやいや。でも、そのルックスで遊んでいないとは思えない。
疑う目つきをしていると、大きくため息をつかれた。
「俺ももう33歳だぜ? そういう遊びは卒業したんだよ」
「……」
遊んでいたことは否定しないのね。
あぁ、なんだろう。むしろ清々しいタイプに思えてきた。
「いたとしても、ここぞとばかりに本気で俺との結婚を目論んで来るだろうな。それだけは困るんだよ」
「なるほど」
木崎弁護士の状況をなんとなく理解し始める。
でもだからといって簡単に頷けるわけがない。私が黙っていると、ダメ押しするように木崎弁護士が口を開いた。
「もちろんずっとじゃない。期間は半年だ。来年、俺は提携を結んでいるアメリカの事務所に研修へ行く。それまででいい。周りには俺がアメリカに行ったことで破局したことにすればいいんだから」
半年?
期間が設けられたことで一気にハードルが下がったように見えた。
「あぁ、まぁそれなら……」
とつい口に出てしまうと、目の前の弁護士はニヤリと笑った。
しまったと思った時にはもう遅い。
「決まりだな」
「えっちょっと、待ってください」
慌てるが、木崎弁護士は聞こうとしない。
「待ったなしだ。いいだろう、どうせ期間が決まっているんだ。君は恋するために、俺をときめきの練習台として利用すればいいし、俺は君を仕事のために偽恋人として利用する。お互い利益はあるだろ。決して悪い話ではない」
「私が、本気で木崎先生を好きになるとか考えないんですか? もしかしたら結婚をせまって仕事の邪魔になるかも」
そう意地悪な質問をしてみるが、フンッと鼻で笑われる。
「俺の性格にいちゃもんつけて、石橋を叩き割るような奴がたかだが半年で結婚を迫るとは思えないね」
「! 別にいちゃもんなんて……」
「心の中で思っていただろ。全部顔に出ているからな、気を付けろよ」
そう指摘されて言葉に詰まる。
詰まった時点で「ほらみろ、図星じゃねーか」と言われてしまった。