恋のレッスンは甘い手ほどき

「もうやだ、最悪……」
「起きてしまったことはもうどうしようもないな。老朽化を放置した大家側の過失だからある程度の弁償もしてもらえるし、そう嘆くな」
「嘆くに決まっているでしょう!」

いくら弁償してもらえるからといって、大量の水で家具も着るものもほとんど全てダメにしているのだから。かろうじて使えそうな家具はあるものの、今かろうじて持ってこれた荷物がスーツケースひとつ分である。

「まぁ、ちょうど良かったな」

そう言って前を向きながら頭をポンッと撫でられる。
なにがちょうど良いだ。何もよくない。

「実家は少し遠いんだろう? それにホテル住まいが続くより良いだろう」
「新しい物件が決まったら出ていきます」
「半年なんてあっという間だ。探すなら半年後にしろ」

私はつい不満げにムッと口を尖らせる。

しかし不本意ではあるが、さすがにふた月もホテル住まいになるわけにもいかない。
かといって、友達の家を渡り歩くわけにもいかない。
新しい物件を探すにしたってお金がないし、家だってどこでもいいというわけにはいかないのだから。
大家にどこか紹介してもらってそこに住めばよかったのだろうけど、そこに木崎弁護士が来て「俺と住む」なんて言うからその話もなくなってしまった。
きっと木崎弁護士のことだから、引っ越しても自分の家に連れてきそうだけど。

仕方ない。半年我慢して住めばよいのだ。
次の家を慌てて適当に探すのではなく、ちゃんと探して選べる時間が出来たと思おう。
そう無理やり思考を変える。

「さぁ着いたぞ」

そう言われて、車はとあるタワーマンションの地下へと入っていく。

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