恋のレッスンは甘い手ほどき
「ルールですか。そうですね、あった方がいいですね」
「あぁ。要は表向きにはラブラブ同棲だと思わせるが、本当はただのルームシェアだからな」
なるほど。
物は考えようだ。ルームシェアを始めると思えばいいのか。同棲ではなく、そう考えればだいぶ気持ち的にも気楽になれる。
……もしかしてこう見えて結構気を遣ってくれている?
まさかね。
「基本的にこの家のものは自由に使っていい。ただ、自分の物は自分で行うこと。例えば、家事とか掃除とか洗濯とか。あと、冷蔵庫の物には名前を書くこと。名前がないものを食われても文句言うなよ」
そう言われて黙って頷いた後、「はい」と手を上げた。
「はい。鈴音」
「あの、家賃とか光熱費はどのくらい出せばいいですか?」
これだけの物件、私のお給料から出せるのかが心配で恐る恐る聞いてしまう。
折半するとしても給料の半分以上が飛ぶのではないだろうか。
それでは生活ができない。
すると静かに首を横に振られた。
「家賃や光熱費についてはいらない。あ、でも自分の食費や日用品は自分で出せよ」
「いらないって……。でも」
「同居は俺が言い出したことだしもとから出してもらうつもりはない。ああ、でもそうだな、出来たらでいいけど、俺の部屋以外の家の中の掃除を時々してくれると助かる。忙しいと正直そこまで手が回らないんだ」
「それくらいなら任せてください」
そう言われてホッとする。
不本意な同居とはいえ、家を追い出された身の上としてはお金が出せない分、どこかで少しでも役に立ちたいではないか。
「それで、本題だ」
木崎弁護士は一口飲んだコーヒーカップをコトンとテーブルに置いた。