恋のレッスンは甘い手ほどき
「まず、いくら恋人になったからと言ってもそれはフリだ。ときめきもただの練習だ。だから同居するにあたってキスやセックスはなし。練習するには鈴音に触れるかもしれないけど、そういうことはしないから安心しろ。鈴音もするなよ」
「しませんよ!」
「それと、半年の間に好きな人が出来たら隠さずに言うこと。状況によっては同居や最悪、恋人関係を解消することになるから」
「解消してくれるんですか?」
「あぁ」
本当に聞けば聞くほどこの恋人話は表向きな話なのだと実感する。
「もうひとつ。同居中に許可なく異性を家に連れ込まないこと。帰ったら真っ最中とか気分悪いからな」
「……それどちらかというと私のセリフなんじゃ?」
ボソッと呟くがその呟きは見事にスルーされてしまった。
まぁ、私が異性を連れ込むなんてことはまずないからそこら辺は大丈夫だろう。
「後は一緒に住むうえで気が付いたら決めて行けばいい」
「そうですね」
初めからギチギチに決めてしまうよりはそのほうがいい。
すると、テーブルの上に置いていた手をスッと掴まれる。突然のぬくもりに思わずビクッと反応してしまった。
「よろしく、鈴音」
「よろしく……お願いします」
挨拶を返すと手をキュッと握られた。
そうか、木崎弁護士はこうやって生活の中でナチュラルにときめきを入れてくるつもりなんだな。でもそれはそれで気持ちが休まらないではないか。
戸惑いながら掴まれた手を見つめていると、そのまま指を絡ませてきた。
「えっと……?」
「指ほっせぇ。何号?」
「え、サイズですか? さぁ、指輪とかしないんでわからないです」
「じゃぁ、測りに行くぞ」
手を掴んだまま急に立ち上がるため、それに合わせるようによろけながらも立ち上がる。
「え、ちょっと、木崎先生!」
「恋人なら指輪のひとつくらい必要だろ」
「つけるんですか?」
「当たり前だ。でないと、俺が恋人に指輪一つ送らないケチな奴に思われる」
鼻にしわを寄せるように嫌そうな顔をする。
別に恋人に指輪を贈らない人だっていると思うのだけど。でもそう言ったところでやめたりはしないのだろう。
「私はなにも返せませんよ」
「鈴音は俺の隣にいればいい」
ドキッとして顔を上げるとニヤリと笑われた。
はいはい、これも練習ですか。
「って、本当に今から行くんですか?」
「あぁ、悪いが俺は夜になったら接待が入っているから出なきゃならないんだ。明日も仕事だし」
そう言うとポイッと私を車に放り込み、日が落ち始めた街を運転し始めたのであった。