恋のレッスンは甘い手ほどき
4.恋人効果はどれほどですか
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「鈴音、なんで指輪をつけないんだよ?」
同居するようになって一週間。
ようやく新しい生活スタイルにもなじんできたある日の夜。
風呂上りに冷蔵庫からアイスを出して頬張っていると、珍しく早く帰った木崎弁護士が、部屋着に着替えてキッチンの入口で不服そうに腕を組んでいた。
「なぜって」
「なるべくつけるようにしておけ」
そんなこと言っても、と頬を膨らませる。
先日、木崎弁護士に買ってもらった指輪は、あれから一度もつけることなく部屋の棚に置かれたままだった。
仮にも偽とはいえ恋人の証なのだからと言われたが、普段からアクセサリーをつける習慣がない分、忘れがちだ。
それが、木崎弁護士には面白くないらしい。
でもさ。この一週間、すれ違いがほとんどだったのによく着けていないとわかったよね。
観察力凄いなぁ。
「だって、仕事中に着けるわけにもいかないし。タイミングがないんですよね」
「仕事の時以外で着ければいいだろう。いくらしたと思っているんだよ、置物じゃないんだぜ」
そう言って咥えていたアイスを取り上げられる。
それには流石に少しムッとする。
「だから! 言ったじゃないですか。一番安いのでいいって」
「馬鹿か。恋人に一番安い指輪を贈る弁護士がどこにいるんだよ」
「いるかもしれないでしょう。そもそも指輪なんて必要なかったんですってば」
「恋人になったら指輪は必要だろう」
え、そういうものなの?
そういうことに関しては経験が浅く、よくわからないため反論できず口をつぐむ。
「だいたい値段なんてどうでもいいんだよ。要は、俺が買った大事な指輪くらい有り難く着けておけってことだよ」
自分で有り難がれなんてよく言うな。
うるさいので仕方なく「わかりました。すみませんでした」と謝ってアイスを受け取ろうとする。
アイスが溶けてしまう。