恋のレッスンは甘い手ほどき


「心配ない。むしろ俺と居て見せつければいいだろう。俺がお前を溺愛しているって見せつければ、周りは勝手に離れて行くよ」
「で、溺愛って……」

ついその言葉に赤くなる。
漫画でしか聞かないセリフだ。そんなことを平気でサラッと言うなんて。
私の反応を見て貴也さんは面白そうに笑った。

「周りに俺がお前しか興味ないって見せつければ、あんな絡まれ方しなくなっていくよ」
「見ていたんですね」
「まぁね」

その顔がどこかうんざりした表情が見えた。

もしかして、貴也さんも色々と質問攻めにあっていたのかな。
まさか、私が辛くならないようにあえてこのタイミングでここに来てくれたのだろうか?
いや、そんなことないよね。
そんなこと……。

思わずじっと見つめると、貴也さんはどこか居心地悪そうに、「なんだよ」と呟いた。

本当に? 私のために?

貴也さんのさりげない優しさに少しだけ、キュンとした。

「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げるとその頭をワシワシと撫でられた。

「今日は何時に終わるんだ?」
「今日は遅番なので、閉店までいます」

閉店は20時だ。片づけをして出るのが20時半くらいになる。

「俺もそのくらいになるから、一緒に帰ろう」
「え」

時計を見ながら、貴也さんは予定を頭の中で確認しているのか、小さく頷きながら立ち上がった。

「でも、今日は金曜日なので来週の発注確認とかあるから、いつもより少し遅くなります」
「いいよ。終わったら連絡して」

そう笑顔で返してくるが、その譲らなそうな口調に私は「はい」と諦めて頷いた。



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