恋のレッスンは甘い手ほどき
ちょっと……、破壊力ありすぎじゃない?
少し困惑したが、それを見破られないようにとキッと睨んで見上げると、ニヤリと口角を上げて私を見ていた。
「別に契約違反はしてないだろ」
「そうですけどっ」
そういう問題ではない。
それでも繋いだ手ががっしりと掴まれており、抵抗しにくい。
「もう!」と力を込めて手を離すと意外とあっさり、その拘束は解かれた。お互いが離れたことで隙間に涼しい空気にが流れる。
「お前、耳弱いよな」
「わかっていてやるなんてサイテー」
「やらなきゃドキドキしないだろう」
それはそうなんだが。
しかし何だか弱点を見破られたようで悔しい。
ひとり眉根を寄せていると、どこか呆れ口調で貴也さんが言った。
「本当に免疫がないんだな。まさか今まで彼氏居たことないとか?」
そう聞かれて無言で首を横に振る。
「いましたよ。……大学生の頃に一度だけですけど」
「それ相当前じゃん。長く付き合っていなかったのか?」
「……すぐに別れました。だから本当に恋愛は初心者です」
消え入りそうな声でボソボソ伝えると「あぁ、なるほどね」とうんうんと頷いている。
悪かったわね、免疫なくて。今度はその恥ずかしさで頬が赤くなる。
彼氏という存在はいることはいたのだ。
大学二年生の頃、初めて付き合った人はいたけれど数か月で別れてしまった。お互い初めての恋人同士で内気すぎたのだ。
一言でいうなら、勇気がなかった。
お互いに何をするにも緊張続きで踏み出し方がわからなく、いつしか疲れてしまい、しまいには気まずくなっていってしまったのだ。
それはまるで中学生のような恋愛の仕方だったけれど、当時の私達にはあれが精いっぱいだった。
大学生にしては幼い恋愛の仕方だったのかもしれないけれど、私はあの恋愛が悪かったとは思っていない。
あれはあれで楽しかったのだから。
「なるほどな。じゃぁ恋愛に関しては学生で止まっているのか」
と分析するように呟く貴也さんに、その通りなのだがなんだかどうにも悔しくて睨み付ける。
しかし、「あ、その真っ赤な顔で男を睨むのは逆効果になるからやめなさい」と注意されてしまった。
逆効果ってどういうことだ?
「免疫なくてすみませんでした。貴也さんみたく異性に困らないようなタイプにはわからないんですよ」
「いやいや、お前ね。やるほうだってそれなりに……。まぁ、いいよ、悪かった。もう帰ろう」
言いかけた言葉をやめて、貴也さんは苦笑する。そして先を歩き出した。
それなりに何だろう。
貴也さんは努力しなくてもそのルックスで女性が自然と集まってくる。
私みたいに、報われないことはそうないだろうな。
そう考えて、つい肩を落とした。
悪い癖だ。
恋愛に対して卑屈でネガティブに考えてしまいがちなところ、そういう所から直さなければとわかっているのに。
『鈴音ちゃんはしっかりしているし、ひとりで生きていけるタイプだと思う』
そう言って別れを告げてきた当時の彼のセリフを思い出す。
ひとりで生きていけるタイプは恋愛したいなんて思わないだろう。
こんな風にあがいたりしていない。
ひとりで生きていかなきゃいけないから生きているのだ。
はぁ、と口から出そうになったため息を飲み込む。
どうしたら自分に自信を持てるのだろうか。
一歩先を歩く貴也さんを見上げる。今は手を繋いでいない。すると一気に空気が身体に入り込んでくる感じがした。