恋のレッスンは甘い手ほどき
久しぶりの体温にピクッと反応してしまった。
「15分したら起こして」
そう言ってそのまま机に顔を伏せて寝る体勢を取った。
「手を握ったままなんて寝にくいですよ。今は練習なんていいですから」
「うるせぇ。少しくらい癒させろよ、恋人だろ」
え、それってどういう意味? 私の手なんかで癒されるの?
手を握って離さない貴也さんに聞きたいのに聞けなくて、ただ顔を赤くするのみだ。だって、あんな言い方されたら勘違いしてしまいそうになるではないか。
貴也さんが私なんかで癒されたいと思っているだなんて。
そんなことありえないのに。
久しぶりに味わうドキドキに15分はやたらと長く感じていた。
15分の間、貴也さんは本当に少し眠ったようで、そっと声をかけるとハッと飛び起きた。そうして、「ありがとな」と告げると時計を見ながら慌ただしく戻っていく。
結局、蕎麦は食べきれていなかった。
そんなので、夜までもつのだろうか。
「キザが心配?」
貴也さんが出て行った出入り口を眺めていると、不意に後ろから声を掛けられてビクッとする。
驚いて振り返るとコーヒーカップを片手に男性がこちらに歩いてきていた。
背が高く少し茶色がかった髪。グレーのスーツは高そうで、胸元に弁護士バッチを付けている。貴也さんも整った顔をしているが、この男性も爽やかな顔をしており、人気がありそうだ。
「えっと……」
あまり見かけない顔だ。
誰だろうと戸惑っていると隣の椅子に座って頬杖をつきながら私を見ている。
「君がキザの恋人の瀧本さん? 初めまして。キザの同期で野上修二です」
自己紹介をされ、「どうも」と会釈する。
どうやらキザというのは貴也さんのことのようだ。木崎だからキザ? そう聞くとおかしそうに首を横に振られた。
「いいや。あいつキザっぽいから」
キザっぽいかな? そんな感じは全くないけど。