恋のレッスンは甘い手ほどき


口は悪いが、望はいつも親友の私の心配をしてくれる。
見た目は私と正反対で派手だけど、どこか冷めている私より実は熱い人間なのだ。
自分に彼氏ができたからと言って、私をマウンティングすることもない。
お酒が入ると毒舌気味になるのがたまに傷だが、常に親身に話を聞いてくれるのだ。
それに、望は間違ったことは言っていない。
耳が痛くなるほど、正論だ。
それは私も十分わかっている。わかっているのだが……。
結局はどこか空回ってしまい、今一歩でうまくいかない。

「でも、そもそもときめき方を忘れた人間が恋できると思う? ときめきを忘れたってことは恋の仕方も忘れたってことなんだよ」

そう言って、手にしていたジョッキをドンッとテーブルに置く。
私だって恋はしたい。
好きな人を作りたい。
デートに行って、毎日連絡取りあって、相手を大切にしたいし、愛されたい。
もう仕事をして家に帰るだけの、平凡な毎日を繰り返すのは嫌だ。
そんなことは常に思ってはいるけれど……。
でも、どうしたら人を好きになっていたのかが思い出せなくなっている。
人を好きになる感覚が思い出せない。
ドキドキするって、どんな感覚だっけ?
胸が苦しくなるってどんな気持ちだっけ?

自分が情けなく感じて、ガクッとうな垂れた私の頭を慰めるように望が優しく撫でた。

「ごめん……、つい言い過ぎたよ。でも、本当に鈴音は可愛いよ。優しくていい子だし。私はそんな鈴音が大好き。だからね、もう少し自信をもって積極的に行きなよ」

そう言われて、小さく頷く。
そうだね。積極性が足りなかったのかもしれない。
自分から変わって行かなきゃいけないんだろうな……。
もう恋に恋する子供でもないし、王子さまだって迎えになんて来ないんだから。
もっと恋愛ごとを勉強して、努力して頑張っていかなきゃいけないのかもしれない。
いつも同じことを望に愚痴っている気がするが、こうして話しているとスッキリしてきた。
なぜか話していると前向きに考えることが出来るから不思議だ。
まぁ、お酒の席でもあるし、その気持ちが長く続くかと言われるとそこは不明なんだけど……。

「うん、そうする。来年の目標はそれだね」
「いや、今からの目標にしなさい」

ニッコリ笑顔で顔を上げたのに、冷たい目でバッサリ切られてしまった。




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