恋のレッスンは甘い手ほどき
「久しぶりに寝る間も惜しむくらいに忙しかったからな……。俺も歳か……」
どこか切なげに呟くのを無視して、キッチンからお盆を持ってくる。
そこには水分とお粥が乗せられていた。
「おかゆ作りました。食べたら薬飲んでください」
医師が診察中に手早く作ったのだ。
「ごめん。お前仕事は?」
「時間休取りました。これから行きます」
「悪かったな」
すまなそうに謝る姿に胸が痛くなる。
男性がこんなに弱る姿は見たことがないし、ちょっとキュンとしてしまった。
初めて入った貴也さんの部屋はシックな装いで、ダブルベッドと机、本棚とシンプルだ。机の上はパソコンの周りに本や資料らしき紙の束やファイルが山積みで、その仕事量に素直に驚く。
本棚にも難しそうな本ばかりが入っている。私なんか一生かけても読まないものばかりだろう。
なんだか落ち着かない。
ここは貴也さんの匂いがいつもより濃く、なんだか胸がそわそわするのだ。
男の匂いに混じっていつも微かに香っていたコロンらしき爽やかな香り。不思議と不快さは一切ない。
むしろ……。
するとお粥を食べ終えたのか、貴也さんが食器を置いた。
「美味かった」
「それは良かった。まだキッチンにありますからね。お腹空いたら食べて下さい」
「何から何まですまないな」
「いいですよ、別にこれくらい。じゃぁよく寝てくださいね」
そう言ってベッドに入った貴也さんを見届け、会社に出勤した。
今日は幸いにも早番だから夕方には仕事が終わる。
夜はなにか栄養と消化が良さそうな食事を作ろう。
男性が弱る姿はこうも母性本能がくすぐられるものなのだな。
そういえば、この前借りてきた漫画でも御曹司が倒れて看病するシーンがあった。弱る姿に主人公がキュンとしていたが、こういうことかと理解する。