恋のレッスンは甘い手ほどき
「ええ。その件に関しましてはすでに裁判所に提出し、警察の方にも確認は取れておりますので……」
真剣な様子にただ黙っているしかないけれど、いつもは見ない仕事の顔にドキッとしてしまったのは否定できない。
なんていうのか、ほらあれだ。ギャップというやつだ。
仕方なく電話が終わるまでおとなしく口を塞がれていると、それに気が付いた貴也さんが電話をしながら視線を私に下ろし、フッと笑顔を見せて頭をポンッと撫でた。
不意打ちの頭ポンに恥ずかしさと、くそ~という悔しさがにじみ、電話が終わったとたん無言で貴也さんの腕を引っ張ってベッドに押しやった。
「ごめんって。怒るなよ」
さっきの仕事モードは一切消え、いつもの口調に戻って謝ってくる。
布団をかぶせると、その布団がひんやりと冷たい。ベッドからでて結構時間がたっているようだった。
「なによ、心配していたのに仕事しているとかありえない」
ふて腐れたような表情で口をへの字に曲げていると、貴也さんは驚いたような顔をした。
「心配してくれたのか?」
「はぁ? 当たり前で……」
カチンときてまた睨むが、視線の先の貴也さんがニヤニヤと笑っているから顔が赤くなって言葉が続かない。
「そうか。ありがとうな」
「……わかっているならいいです」
照れたことを隠すようにそっけなく言う。
フッとベッドわきの床に視線を落とすと、ファイルのようなものが数枚無造作に置かれていることに気が付いた。その間から紙がはみ出している。
ベッドから下りる際に、踏んで足を滑らせでもしたら大変だ。
まとめて恥によけておこうと、かがんでそれを手に取ると中が見えてしまった。
その内容にハッとする。
その紙には、女性の名前とプロフィールが書かれてあったのだ。
かがんだまま私が凍っていると、貴也さんがベッドから覗き込んだ。
「ん? ああ、それか」
「これって、まさか……」
「そう、お見合い写真と釣り書き。時々実家から送られて来るんだけど、邪魔だからそこに置きっぱなしになっていたんだ」
邪魔だからと置かれたお見合い写真はひとつやふたつではない。
さすがにこれだけの物が時々送られてくるとなると辟易する気持ちが少しわかった。