恋のレッスンは甘い手ほどき
「え? それってどういうこと?」
「つまり、どうでもいい人にはいくら練習とはいえ、ときめいたりしないものよ」
「え、そうなの?」
恐る恐る聞き返すと、大きく首を縦に振られて頷かれる。
「いや、でも相手はイケメンでエリートで誰でもときめくような人物だよ。何とも思っていなくったってドキッとはするでしょう?」
どこか渇いた笑いをしながらビールを喉に流し込む。
「確かに、そうかもしれないね。特に鈴音みたく、男性に免疫がないなら尚更かもしれない」
「でしょう?」
「でも、考えてみて。いくらイケメンでエリートで誰もがときめくような人でも、べたべたと触ってくる奴がいたら嫌だなとか思わない?」
「それは……」
確かに少し嫌かも。
貴也さん以外の人にべたべたと触られるのは嫌だと思う。
口をつぐむと、望はにっこりほほ笑んだ。
「つまりね、その弁護士さんは鈴音にとって触られても不快ではない人物ということでしょう? むしろ触られてときめくくらいに。それってどういうことかわかる?」
「どういうこと?」
「鈴音にとって、それは有りなんだよ」
蟻? あぁ、有りね。
有りか無しかで言ったら、それは……有りかもしれないけど……。
「だとしても何も変わらないよ。私と貴也さんは」
例え、もし。もしも私が貴也さんを好きになることがあったとして、だからといってどうだというのだろう。
あんなイケメンでエリートで誰もが憧れるような人。
それこそ、ときめいて終わりだ。どうなることはない。
「諦め癖、直すんじゃないの?」
「諦める前から別に何も始まっていないし、始まることもないよ」
にっこり笑うと、望は軽くため息をつき「あ、そう」と苦笑した。