恋のレッスンは甘い手ほどき

室内は立食に近い形で、丸いテーブルに料理が並びそれを囲んだり、壁側の並べてある椅子に座りながら話すなど、みんなが自由に動けるようになっていた。

「鈴音ちゃん、調理師してるんだー。凄いね」

懐かしい旧友たちとテーブルを囲みながら近況報告をする。
みんな、会社で働いたり結婚したり、中には小さな子供を連れてくる人もいた。経営学部だったこともあり、会社を興した人もいる。
その中でも、私は大学を卒業してから専門学校で調理師免許を取ったので珍しがられた。

「萌ちゃんの子ども、もう五歳なの?」

久しぶりに会った友達の萌ちゃんは少しふっくらしたお腹を撫でながら頷いた。

「そうなの。当時の年上の彼と卒業後に出来婚したんだ。今は二人目。でも、相手が年上でまだ良かったよ。同い年とかなら経済的にしんどかった」
「なるほどね」

確かに卒業後、すぐなら色々と大変だったろう。
それでも萌ちゃんが幸せそうで良かった。

「そういえば、渡辺くんも大変だったみたいね」
「陸くん?」

望が聞き返すと萌ちゃんは頷きながら顔を寄せて声を落とした。

「陸くん、卒業時に年下の彼女がいたらしいんだけど、その後にその子が妊娠したらしくて。渡辺君も新卒で働き始めたばかりだったし、彼女も大学辞めたりして色々と大変だったみたい」
「そ、そうなんだ」

萌ちゃんは仲良かったグループが違かったこともあり、私と陸君が半年付き合っていたことを知らない。だから、噂の一つとして話してくれた。
だが、それにはさすがにショックだった。
陸くんが卒業後、すぐに結婚したことや子どもがいることはもちろんだけど、なんとなく「あ~、私にはキスが精いっぱいだったくせに」と思ってしまったのだ。
私に出来ないことを、あの小動物のような可愛い年下の彼女には出来たんだなということが少なからずショックだった。


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