恋のレッスンは甘い手ほどき
陸くんの視線の先を追い、聞き覚えのある声に振り返る。
そこにはスーツに身を包んだ貴也さんが、微笑みながら私の真後ろに立っていたのだ。
貴也さんの表情は笑顔だが、醸し出される威圧感に陸くんがおずおずと手を離した。
「どうして……」
「外で待っていても一向に来ないから、中に入ってきたんだ」
さっき貴也さんから『終わった』とメッセージが来たので、私も終わったことを伝えると『迎えに行く』と返事が来ていた。
外で待っていても私が現れないから様子を見に来たのだろう。
よく入ってこれたな。
まだ会場には同級生たちが何人も残っていたが、彼らも見知らぬイケメンの登場に驚いたようだ。
遠巻きから様子をうかがっている。
「彼女がなにか失礼を?」
貴也さんは穏やかに陸くんに聞くと、陸くんが目を丸くした。
「彼女?」
私と貴也さんを交互に見ている。
まさか、私に恋人がいるとは考えていなかったのだろう。本当に、自分の気持ちだけしか考えていなかったのではないだろうか。
呆れた気持ちで、陸くんを見て言った。
「陸くん。彼は私の恋人なの」
「え……? 彼氏、いたんだ?」
結婚はおろか、彼氏すらいないと端から思われていたのかと苦笑する。
戸惑う陸くんに、貴也さんが内ポケットから名刺を取り出した。
「こういう者です。何かお困りの際は、いつでもお声がけ下さい」
渡された名刺を見て、ついに陸くんは言葉を失った。
それはそうだろう。明らかにイケメンで、着ているスーツも一目で仕立ての良い高級な物とわかる素材で、しかも肩書は弁護士だ。
その相手が私の彼を名乗っているのだから。
陸くんの反応を見てから、貴也さんは私の腰を持って自分の方に引き寄せる。
「さぁ家に帰るよ、鈴音」
貴也さんに促されながらチラッと陸くんを見ると、静かに俯いたままだった。
会場を出たところに望や友達数人がおり、何か聞きたそうにしていたがとりあえず「帰るね」と声をかけて停まっていた貴也さんの車に乗り込んだ。
これは後でどういうことかという皆からのメッセージが届くだろうなと心の中で苦笑いした。