恋のレッスンは甘い手ほどき


帰り道の貴也さんは無言だった。
助手席に乗りながら、時々チラッと横目で見るが真っ直ぐ前を見ている。
機嫌が悪そうに思うのは私だけだろうか。困惑しながらも、信号待ちで車が止まった時に話しかけた。

「貴也さん、さっきはありがとうございました」
「あぁ」

前を見ながら一言頷くだけ。
また、会話なく車は発進してしまった。
これは絶対に機嫌が悪いんだろうな……。
心の中でため息をついて、スマホを確認すると望や他の同級生たちからメッセージが届いていた。
もちろん内容は、『あのイケメン誰?』という内容。
望に関しては『あれが例の彼でしょう? かっこいいじゃん! 本当に恋人になっちゃいなよ』なんてことまで書かれていた。
それに返信をしていると、車はマンションの駐車場に入っていく。

車を降りて部屋へ行くエレベーター内でも、もちろん貴也さんは無言だった。
そんなに怒らせるようなことしたかな。
あ、私が恋人だってみんなの前で紹介したのが嫌だったのかな。
本当は偽物なんだもんね。気に障ったのかな。
そんなことをグルグルと考えていると、部屋に到着していた。貴也さんに続いて部屋に玄関に入って施錠をすると、先に入った貴也さんが私を振り返っていた。

「鈴音、あれがお前の元カレか?」

本当、鋭い! そこまでばれているなんて思わなかった。
しかし誤魔化したところで、それが真実だし仕方がない。

「うん、まぁ」
「復縁を迫っているように見えたが?」
「そうです」
「そうか。しかし彼の左手の薬指には結婚指輪が見られた。彼は既婚者か?」
「はい」

え? なに、ここ法廷? 裁判されているような圧迫感と緊張感が漂っているんですけど。
貴也さんも職業病なのか、質問が尋問っぽくなってきているし。

「鈴音は彼と今まで不倫関係にあったのか?」
「あるわけないでしょう!?」

驚いてつい大きな声が出てしまう。
しかし、貴也さんは私をじっと見つめて嘘がないかを見抜こうとしているようだ。

「彼とは卒業以来、会ったのは今回が初めて! 確かに、復縁をせまるような言い方をされたけど、不倫関係にあったとかなんて事実無根です」
「それを証明するものは?」
「証明!?」

もう!何なのよ、これじゃぁ本当に尋問じゃない!



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