恋のレッスンは甘い手ほどき


どうして? どうしてこの人が私の名前なんかを知っているのだろう?

顔見知りではあるが、話したこともない男性に急に名前を呼ばれると、妙に焦った気分になる。
疑問や不信感が顔に出ていたのか、男は「あぁ」とひとり納得しスーツの胸元をトントンと叩いて「名札。いつもエプロンに付けているでしょう」と話した。
確かに厨房のエプロンには名札を付けていたが、そんなの覚えている人などいるはずがないと思っていた。
それをこの人は覚えていたというのか。

「俺の事わかる? 同じ会社の木崎貴也」
「はい……。食堂で何度かお見かけしたことがありますので……」

問われてやっと絞り出した声は少しかすれている。
名前は大関さんのおかげで知っていた。
そのルックスもあり、一部では有名な木崎弁護士だ。
イケメンで独身。
爽やかで仕事も優秀で優良物件なのよーなんて話していた。
その時は、「へー、そうなんですか。凄いですね」と答えていたが興味はあまりなかったので流していた……。
同じ会社とはいえ、相手は弁護士だし私には縁のない相手だと思っていたから。
なんでそんな人がこんなところに……。
いや、それよりも。


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