恋のレッスンは甘い手ほどき
週末の土曜日。
今日は望と会う日だ。
家を出るとき、貴也さんはすでに家にいなかった。
そう言えば、今度裁判があるから少し忙しいって話していたっけ。
前に倒れてから、無理して仕事をすることは減ったようだけど仕事柄、やはり忙しいのはしかたないようだ。
久しぶりに望に会って、ランチをしながら近況を話す。
「何、その茉莉って子! すごいムカつく。私が側に居たら許さなかったのに」
茉莉さんの話に腕をぶんぶん振って望は怒った。
「まぁ、最近は少し大人しいんだけどね」
野崎さんのおかげで上司から注意を受け、さらに噂を聞き付けた貴也さんが茉莉さんに注意をしたらしく(しかも会社のみんなが見ている前で)最近は大人しくしているらしい。
「で、本当に木崎弁護士を好きになっちゃったわけか」
「うん……」
「なんで鈴音はそうやって恋愛に恵まれないんだろうね」
すべての事情を知っている望は、私の恋心に同情的なため息をついた。
「難しいよね、恋愛って。でも期間限定だけど、貴也さんを好きになって後悔はないから」
「でも春にはさよならなんでしょう? せっかく鈴音が人を好きになれたっていうのに、なんかもったいなくない?」
もったいないかどうかは別として、なかなか人にときめいたり恋愛感情を持てなかった私をよく知っているから、これから先の未来を想像して落胆も大きいのだろう。
「でも、そういう契約だから」
何度も自分に言い聞かせた言葉だ。
期間限定の恋人。でも、だからこそ今を楽しみたいのだ。
私の話に渋々頷いてくれた望は、「よし、じゃぁ木崎弁護士の思い出に残るようなプレゼントを贈ろう」と笑ってくれた。
しかし……。
ショウウィンドウを前に、私は「うーん」と悩み続けていた。
考えれば、男性にクリスマスプレゼントを贈るなんて初めてだ。
何がいいのか悩む。
ましてや、貴也さんは何気にいいものを身に着けている。スーツだってきっとブランドものだろうし、時計や靴もハイブランドの物だ。
そんな人に私みたいな薄給の人間が何を贈れるというのだろう。
「でも貯金はあるんでしょう? なら、少しくらい奮発して頑張ってもいいんじゃない?」
「え」
「今の心の声、全部声に出ていたからね」
望に指摘されて我に返る。
しまった、声に出していたか。
「別に何を贈っても、木崎弁護士なら喜んでくれるんじゃないの?」
「わかんないよ。こんなもの受け取れないって言われるかも……」
「元プレイボーイがそんなこと言うかな。大丈夫だと思うけど」
自信のなさから疑心暗鬼になりつつ、望に励まされながら一日かけてプレゼントを探した。