僕は犬になった?


第1話 僕は犬になった?

朝、僕は目覚めた。

カーテンの隙間からは朝の陽光が差し込んでいる。

今日は良い天気みたいだ。

隣には楓がいつもと同じように小さな寝息をたてていた。

(やっぱり楓は可愛いなぁ)
って微笑んで見てたら頬に涙の痕があった。

僕はその時は楓が哀しい夢でも見たんだろうと思っていた。

よく見ると瞼にはまだ涙が溜まっていたので、僕は舐めてあげようと思った・・・

えっ? 舐めてあげよう?

(指で拭ってあげようだろうが)
と自分に突っ込む。

(はははっ! 僕はまだ寝惚けてるんだな)
と思った。

僕は人差し指を楓の瞼に伸ばした?

積りだったんだけど・・・

僕の指は短くて毛むくじゃらだった。

(なんだ? これ?)

僕は混乱した。

その時、楓が目を覚ました。

瞼から涙が一筋流れる。

僕は反射的にペロペロと涙を舐めてしまった。

(なっ なにしてるんだ、僕は?)

すると楓は
「おはようヘンタ、くすぐったいよ」と、言うと楓は僕の両脇に手を入れて持ち上げた。

突然空中に持ち上げられて僕はパニックになってしまった。

だって僕は高所恐怖症だから。

僕は
(おい、楓。下ろしてくれ)
と言った
積りだったんだけど・・・。

楓は俺の顔を見つめて
「こらっ! ヘンタ、暴れるんじゃないの」って怒ったんだ。

ヘンタって・・・僕達が飼っている犬だよね?

(楓、何言ってるんだ? 僕はヘンタじゃなくて健介だろ?)
って言ったんだけど、楓には聞こえ無いらしい。

それから楓は僕を抱きしめて
「もう私にはヘンタしかいないよぉー」って哀しそうに言った。

楓に力一杯抱きしめられて苦しかったけど
(何言ってるの? 僕がいるじゃないか)
って頑張って言ってあげたんだ。

そしたら
「ありがとう、ヘンタ。慰めてくれるんだ」って楓が言うんだよ。

何か微妙に話が噛み合わない。

(僕はヘンタじゃないよ)
ってもう一度言ったけど楓には届かない。

僕はますます混乱してしまった。

楓は立ち上がって僕を静かにベッドに置くとカーテンを開け、外をじーと見てた。

僕は楓が何を見てるのか気になったんでベッドから降りて楓の足元にじゃれついた。

じゃれついた? 足元に?

楓はしゃがんで再び僕を抱え上げると
「ヘンタも寂しいの? そうだよね。健ちゃんが急に居なくなっちゃたんだもんね」と言った。

(僕が居なくなったって? どういう事?)

すると急に楓は
「いっけなぁーい。遅刻だぁー」と言って急いで支度をしだした。

支度が終ると楓は僕の前にドックフードの入ったお皿と水を置いて、僕の頭を撫でながら
「じゃ行ってくるね。ヘンタ。良い子にしてるんだよ」って言って部屋から出て行ってしまった。

(僕はヘンタじゃない)
って何度も言ってるのに・・・

でも何だよ?

ドックフードって・・・

僕は楓が頭おかしくなったんじゃないかと思った。

でも楓が会社に行く時間なら僕も行かなくちゃ
って思って、スーツに手を伸ばそうとしたんだけど・・・

手が届かない。

って言うか、遥か上だ。

僕は焦って部屋を駆けずり回ってたら楓のドレッサーの鏡にヘンタが映ってるのが見えた。

鏡には映っているのに部屋にはヘンタはどこにもいない?

(あれ? 何かがおかしい?)

僕はドレッサーに近づいて行ったけど鏡には映らない。

ヘンタがいるだけだ。

僕が右を向くと鏡のヘンタも右を向く。

僕が舌を出すと鏡のヘンタも舌を出す。

僕がチンチンすると鏡のヘンタもチンチンする。

(あれ?)

鏡にはヘンタだけが映っていた。



うん、もう認めるよ。

本当は分かってたんだ。

どうやら僕は犬になってしまったみたいだ。
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