悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「あ、そういえば、アルはどうして私があそこにいるのがわかったの?」
「――ラナが血相を変えて僕のところに走ってきてね。マリアが会いに来ていないかと。いくら何でも戻って来るのが遅すぎる、と」
ラナおばさん……そっか。いつまで経っても戻って来ない私を心配して、アルのところまで駆け付けてくれたんだ。
「“マリアは自分のところに戻って来ると約束した。マリアは約束を破るような子じゃない”ってね。僕はそれを聞いた瞬間に走り出してた。後から聞いたけど、君にあれだけ酷いことを言ったハロルドも目の色を変えて必死にマリアを探してたらしいんだ。だから、今日のハロルドの態度も許せるなら許してあげてほしい。あいつは、僕を想ってあんな言い方しかできなかったんだ」
「ハロルドが……」
ハロルドなら私が死にそうになっててもそれをおかずにご飯を食べてそうなのに。
必死に探してくれてたなんて……そんな姿、見て見たかったなぁ。
「ほら、あれはノエルからのお見舞い。ノエルもああ言ったものの、ずっとマリアのことを気にかけてたみたいだよ。――マリアは本当に政略結婚が目的だったのかって、一人で考え込んでた」
ベッド横にあるサイドテーブルの上には、大量のシュークリームが置いてあった。
こんなに食べきれるわけないでしょ。と心の中で突っ込みながら、私はノエルがこれを作っている姿を想像するだけで自然と笑みがこぼれた。
「……アル。私、アルに言いたいことがあって」
「……うん」
「あの手紙は、私のもので間違いないし、政略結婚を目的にここへ送りこまれたのも――多分事実」
目が覚めた時にはもう城の敷地内にいたから、その前のマリアのことは私にはわからなくて濁したような言い方になってしまった。
「でも、私が今日アルに言ったことは本心じゃ――!」
「知ってる」
「へっ」
信じてもらえるか不安な気持ちを抱えながら勇気を出して言おうとした言葉を、見事に途中で遮られる。
知ってるって、どういう……頭の中がこんがらがってきた。
「あの時、マリアが仮面を着けたのがわかった」
「嘘。だってあの時のアルの反応は」
「言っただろう? 君が仮面を着ける時は、僕も共犯だと」