悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
! と、いうことは。
アルも私と一緒に、偽りの自分を演じていた――?
「あんな手紙に君が大人しく従うとは思えないし、従っていたなら行動が謎すぎる。何より僕は一緒にいてマリアに違和感を感じたことは一度もない。でもあの時マリアは言い訳せずに――嘘を吐いた。何か、理由があると思ったんだ」
知らなかった。気づかなかった。
アルは私に合わせて演技をしていたというの?
「……すごい。すっかり騙されてた。私」
「僕だって傷つかなかったわけじゃないよ。例え嘘だとしても一切否定をしなかったってことは、僕との結婚を望んでないって言われたようなものだったから。でもそれより、誰がこの手紙を持ち出したかが気になって――」
「私もそれは気になる――あの手紙はずっと自分の部屋に置いていたわ。誰かが盗んだとしか思えない」
「僕もハロルドに渡されて、ハロルドに聞いても今朝広間に置いてあったって言うんだ。マリアを陥れようとした人間が城にいることを知って、あの後独断で調べていたら……その間にマリアがこんな目に……本当にごめん」
眉を下げ辛そうな顔をして謝るアルに向かって私は首を横に振る。
「アルは、何も悪くないよ」
「マリア――よかった。君が無事で、本当に」
アルは私が今ここにいることを確かめるように、強く私を抱き締めた。
「助けてくれてありがとう。アル」
私はここにいるよ、と。
アルの胸に顔を埋め、私もまたアルがここにいる喜びを噛みしめていた。
「――マリアはずっと、僕がどうして君を追いかけていたがわからなかったようだけど」
アルはそっと身体を離すと、私の両腕に手を添えたままそんなことを話しだす。
「僕は君がこの城に来たあの日、小部屋の窓から君のことを見ていたんだ」