悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
昨日連れて行ってもらった、アルのお気に入りの場所。
あの窓からラナおばさんの花畑がよく見えることは、私も昨日見たから知っている。
「ロイが言っていたリリーを突き飛ばしたという話――君が庇ったのは、ラナの青い花だろう?」
「! どうしてアルがそれを」
「ラナの夫であるサムから聞いたんだ。ラナとの大切な思い出を僕だけに話す内緒話だって。マリアはラナから聞いたんだろう?」
アルはおばさんの旦那さんから、私より前にこの話を聞かされていたんだ。
「その時からずっと気になってた。そして誰も知らないこの話を知っていることを、花を見て微笑む君を見て確信した。僕だけが知っていて気にかけていた青い花を知っている人がいきなり現れたんだ。……もし運命を信じるならば、これこそ運命だと思った」
あの日、私が花畑で目覚めたこと。
ラナおばさんが、私に思い出を託したこと。
全部にちゃんと意味があって、こうして今、繋がった。
「――国の平和を保つ為に、いろんな自由を犠牲にしてきた僕の世界は大きいようでちっぽけで……でもそんな小さな世界で、僕は君に出逢えた」
アルは私を自分の方へぐいっと抱き寄せ、顔を近づける。
吐息がかかりそうな距離と見つめられる熱い瞳に、私の心臓は破裂しそうだ。
「君が好きだマリア。――君の気持ちを聞かせて?」
アルに好きだと言われたのはこれで三回目なのに。
アルの言葉一つ一つがどうしようもなく嬉しくて、今まで我慢していた分の涙が一気に溢れ、私の頬を濡らす。
「私も、好き」
ずっと言えなかった。周りを気にして。この気持ちを認めたくなくて。
今、やっと言えた。
「貴方が大好きよ。アル」
一度言ってしまったら、何度だって伝えたい。
これが私の、ありのままの気持ち。
私の返事を聞いたアルは満足そうに笑い、頬を伝う私の涙を舐めるとそのまま何度も頬にキスを落とし、柔らかい唇はそのまま私の唇に重ねられた。
一度唇が離れたかと思うとすぐにまた塞がれ、長いキスに頭がくらくらする。
「マリア――愛してる」
そのままアルと私はベッドに沈み――私は初めて、人に愛される悦びを知った。