悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
絶対にそうだ。だって私はこの主人公であるリリーの可愛さに一目惚れしてこのゲームを買ったんだもの。
ジャケ買いしていざプレイしたら、リリーを操作してイケメンを落とす俗にいう“乙女ゲーム”だったから男に愛想ふりまくの嫌ですぐやめちゃったんだよね。リリーを落としたかったんだよ私は。
さっきおばさんが言っていたアルっていうのは……メインキャラの王子か。あんまり覚えてないけど。
ラナおばさんも普通に登場キャラでいた気がする。周りの男達からの好感度とかを教えてくれるポジションの人だったような……
「ええ元気よ! 今日をすっごく楽しみにしていたの!」
初めて聞いたリリーの声。可愛くてたまらない……っ!
――ん? でも待って。リリーがここにいるってことは、私は?
マリア・ヘインズって……リリーをいじめてたいわゆる“悪役令嬢”だった気が――
いや間違いない。この自分でも確認できる長い髪が彼女のビジュアルまんまだ。
はっ! あそこにある湖を覗き込めば……!
私はちゃんと足元に花がないかを気にしながら急いで湖まで行くと、水面に浮かぶゆらゆらとした自分の姿を確認した。
おへそ近くまである紫のロングヘアー。綺麗に分かれた前髪。吊り上がる猫目。朱色がきつい唇の下にある無駄にセクシーなほくろ……
ここまではっきり映ってるわけないのだけれど、ぼんやりとした姿を見た瞬間、記憶の奥底で眠っていた“マリア・ヘインズ”の姿を私は鮮明に思い出したのだ。